評価:
訳者の村上春樹は、
表題の短編を、数十回読み直しているそうである。
レイモンド・カーヴァーの短編の場合、
読んでいる最中に「良い小説だなぁ」と思う。
それに対し、フィッツジェラルドの短編は、
読んだ後に、気にかかる感じが残る。
もっとも、フィッツジェラルドと村上春樹の共同作業と言える
本書の中には、背筋がゾッとするくらい流麗な言い方が散見するのけどネ。
本書の最後に書かれている村上春樹のエッセイ
「スコット・フィッツジェラルドの幻影」は興味深い。
1929年の恐慌を境に、「それまで未曾有の好景気に浮かれていた
アメリカ社会の様相はがらりと変貌を遂げ、そこには新しい価値観を持った
若い世代が登場していた。
不況の時代にもまれた彼らは、20年代の青年たちよりはずっと懐疑的で
あり、ずっとリアリスティックであり、ずっと政治的であった」
(本書より引用)。
そして、時代に合わなくなったフィッツジェラルドは、
社会から、そして出版社からも受け入れられなくなり、
例によって(?)彼は、酒びたりの自己壊滅的な生活を送るようになる。
時代の変化の影響を、文系の作家も受けるということは、
当方も何となく思っていたが、改めてその事実に触れると、
へーと思ってしまうねぇ。
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