評価:
文語調の読みにくい箇所がある一方、
初期の作品だけあって、江戸っ子らしい洒脱な言い回しも多い。
(もし、最後まで文語調であったなら、最後まで読めなかっただろう)
ところで、「彼岸過迄」の最後の方に、次のような文がある。
内向的な須永に対する、叔父の松本の意見である。
「内へ内へと向く彼の命の方向を逆にして、外にとぐろを捲き出させるより外
に仕方がない。外にある物を頭へ運ぶために眼を使う代わりに、頭で外にある
物を眺める心持ちで眼を使うようにしなければならない。
天下にたった一つで好いから、自分の心を奪い取るような偉いものか、美しい
ものか、優しいものか、を見いださなければならない。一口に云えば、もっと
浮気にならなければならない」
この言葉を受けて、須永は旅に出るのだが、「草枕」は、
その続きのような感想を持った。
(作品発表の時期は、「草枕」が先で、「彼岸過迄」が後だが)
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