評価:
なかなかの長編である。
歴史小説というと司馬遼太郎の一連の作品と
森鴎外の「渋江抽斎」「阿部一族」しか読んだ記憶がない。
それだけに、当作品は新鮮である。
まだ第一部(上)の途中であるが、
興味深い記述があるので、ここで書き留めておこう。
江戸末期、幕府は金貨の質を悪くしたため、
たいへんなインフレになった。このことは以前、
何かの本を読んで知っていた。
金貨の質を落とすということは、
通貨の魅力がなくなるということで、
現在で言えば、低金利の状態だというふうに理解している
(金利を下げれば、円安になり、インフレになる)。
釈然としないままだったのは、
なぜ江戸幕府は金貨の質を落としたのか、ということだ。
その疑問が、当作品を読んでいて理解できた。
遠因は横浜港と開港にある。
日本の小判や一分金は、海外と比べものにならないほど良質であり、
そのことに気づいた外国の商人は日本の金貨を輸出し、
膨大な利益を得た。
そのため幕府は、外国の貨幣と釣り合いを取るため、
応急手段として、金貨の質を落としたわけだ。
ちなみに、この場当たり的な政策により、
日本国内では旧貨と新貨が出まわることになり、
当小説の舞台となる木曽街道沿いでも、
新貨で古貨を買うという目ざとい商人たちが現れたという。
さて、日本国内の貨幣を、
すべて新貨に切り替えてから、開国したらどうだったんだろう?
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