評価:
「岩波文庫版で、
「蟹工船」と一緒に
収められているのが、
「1928・3・15」です。
こちらは、
小樽での共産主義の
大弾圧の話。
登場人物の佐多は、
おそらく小林多喜二、
本人でしょう。
佐多の母親は、
女土方をしながら彼を育て、
小樽商校まであげます。
「息子が学校を出て、
銀行員か会社員になったら、
息子の月給を自慢したり、
ボーナスでたまに温泉に行ったり、
…もう質屋に通ったり、
差し押さえをされずにすむ」
それだけを夢見て、
女土方として働きづめます。
実際、佐多は
銀行員になるのですが、
いかんせん、当時はやりの
共産主義思想に
取り付かれてしまう。
そしてある日、
彼の家に検束のため
警察がやってきます。
その時の、佐多の母親の、
あわれな姿がナマナマしい。
「彼は部屋の片隅の方で
ぺったりへばったまま、
手と足だけを
バタバタやっている
母親を見た。
唇がワナワナ動いて、
何か一生懸命ものを
いおうとしているらしく、
しかし何もいえず、
サッと凄いほど
血の気の無くなった
顔がこわばって、
目だけグルグル動いている」
…多喜二の描写力は
すごくリアリティーがあって、
29歳の若さで獄中で亡くならなければ、
まだまだ良い小説を書き続けていたでしょう。
それにしても、
イデオロギーにとりつかれると、
(または自分の考えに固執しすぎると)
当人はもちろん、周りの人も不幸にするという、
なにか、身につまされる話です。
やはりイデオロギーは良くありません。
しいて言えば、利他主義なら良いのですが。
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